がんばる税っ!
みつばち会計事務所の丸山です。
今日は、身近な問題としても興味深い「10年退職金事件」から所得税の退職所得と給与所得の違いについて見ていきたいと思います。
ターゲット
今から大学院を目指される税理士受験生。
サラリーマンで退職の取り扱いに興味のある方。
事業者で退職金規定を置いている経営者。
参考文献
西本靖宏「10年退職金事件」租税判例百選【第6版】p.76
10年退職金事件とは
この事件は、A社が経営難のため人件費の削減を目的に就業規則を改定して、元々55歳で定年の規定を設けていたものを、10年に到達した社員に対して、退職金規定に基づいて退職金の支給を行いました。
そして、退職金を受け取った従業員は、退職したり、 引き続き勤務したりしていました。
そして、引き続き勤務した従業員については、役職、給与、有給休暇の日数の算定等には変化がなく、また社会保険の切替えもされていなかったそうです。
そこで、この退職金について、給与所得ではないかとして争われた事件がこの10年退職金事件です。
昭和58年12月6日に最高裁判決が出た事件になります。
退職所得とは
退職所得とは、文字通り退職金を貰った時の所得になります。
サラリーマンが勤続して退職金を支給された場合や、会社の社長が代表を辞めたりした場合に支給される場合が考えられます。
なぜ、退職所得をめぐる事件が起こるかというと、それは退職所得がとても有利な税金の計算方法を適用することができるからです。
(収入金額- 特別な控除) × 1 / 2 = もうけ
退職所得は老後のための支払いという意味合いがあるため、受け取った収入から特別に多くの控除をすることができます。
さらに、その金額を半分にしてもうけを計算します。
さらにさらに、退職所得は分離課税と言って、退職所得以外にどんな収入があったとしても関係なく所得税が計算されるメリットもあります。
つまり、めっちゃお得ということです。
退職所得と判断されるためには
今回の事件が10年退職金事件という特別な名前が付けられて有名な事件になったのは、この判決で、退職所得となるための判断材料を裁判官が言ったからになります。
それは、次の3つの要件です。
●退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること
●従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること
●一時金として支払われること
んーなるほどな、となる人も少ないと思いますが、元々、退職金に当たるかどうかの判断については、次の所得税30条しかなかったことを考えると画期的と言えるわけです。
『退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与』
(所得税法30条1項)
まあ、これだけで判断しろというのも無理があるので裁判になって最高裁まで争われるわけですが。
結局、裁判は勝ったの負けたのか
結論は、納税者が負けました。
でも、この裁判はいわゆる逆転裁判で、一審と二審では納税者が勝訴していました。
しかし、最終的に最高裁がそれらの判決内容をひっくり返して、今回の所得については退職所得には該当しないと判決を下しました。
要するに、法律の専門家であっても判断が二転三転するほど難しい問題だということです。
ただ、一つ言えることは社内に退職金規定があって、それに従って10年の定年制で退職金という名目で支給したからと言って退職所得と判断される可能性は低いと言えます。
ちなみに、退職金と判断されない場合、会社は通常の給与として計算することになるため、源泉徴収の徴収漏れとそれを納付していなかった不納付加算税を国から請求されます。
この裁判では、納税者敗訴のため、そのような処分が会社に下されたと考えられます。
裁判の当事者からしたら、逆転負けで罰金まで徴収されるという、まさに泣きっ面に蜂と言った状況だったのではないかと予想されます。
まとめ
退職所得というのはとても有利に税金計算が可能なため、法人の保険を用いた節税スキームとしてよく活用されます。
しかし、退職所得に該当するためにはただ単に退職金規定を作って支給するだけでは認められない可能性があります。
その点については個別の会社の状況次第でなんとも言えないところです。
節税だけを考えていると今回の裁判のようなお咎めを受けてしまうかもしれませんね。
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